10分でわかる「人的資本開示」リーダーシップ、D&Iなど具体的な開示項目を紹介!
2023年3月期決算以降、有価証券報告書(有報)を発行する大手企業4000社を対象として、人材投資額や社員満足度といった情報の有報への記載が義務化されます。
人的資本開示に対応し、自社の未来に活かすにはどうしたらいいのでしょうか? 経営者、人事担当者が知っておくべき開示のステップや具体的な項目について解説します。
要点1 |
2023年3月期決算以降の有報にて人的資本情報記載が義務化される。 |
要点2 |
人的資本開示の項目にはリーダーシップ、D&I、エンゲージメントなどがある。 |
要点3 |
自社の経営戦略に沿った指標を選ぶことが重要となる。 |
目次[非表示]
- 1.人的資本開示とは?
- 2.開示する情報はどのようなものか?
- 3.戦略的な人的資本開示に向けたステップ
- 4.開示する項目について知るためのおすすめ書籍
- 4.1.リーダーシップ
- 4.2.D&I
- 4.3.従業員エンゲージメント
- 4.4.リスキルのための取組
人的資本開示とは?
ESG投資家が情報開示を切望する人的資本。「人的資本の情報開示」とは、企業の人材戦略を定性的かつ定量的に社内外に向けて明らかにすることを意味します。
これまでは、プライム・スタンダード市場の企業がコーポレート・ガバナンスコードの観点から、人的資本の開示を求められており、統合報告書での任意記載という方法をとることが可能でした。2023年3月期からは、内閣府令の施行により、全上場企業が人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」について開示義務が発生します。そのため、上場企業の多くを占める3月期決算の企業は急ぎの対応が求められています。
人的資本開示がなぜ重要なのか、その背景を知りたい方はこちらの「10分でわかる人的資本経営」の記事もご覧ください。
開示する情報はどのようなものか?
では具体的な開示項目はどのようなものでしょうか。内閣官房の「人的資本可視化指針」では、7領域19項目の開示事項が例示されています。
育成:従業員育成、後継者育成、優秀な人材を維持するシステムの整備状況。リーダーシップ向上の機会、従業員一人当たりの研修時間や研修費用など
エンゲージメント:従業員満足度など
流動性:離職率、採用・離職コスト、採用・人材定着の取り組み
ダイバーシティ:女性管理職比率、男女別平均給与格差、育児休暇後の復職率・定着率、男女別育児休暇取得社員数など
健康・安全:労働災害の種類や発生件数、医療・ヘルスケアサービスの利用促進など
労働慣行:深刻な人権侵害の件数、苦情の件数、業務停止件数、差別事例の件数・対応措置など
コンプライアンス・倫理:コンプライアンスや人権の研修を受けた従業員割合など
(出典)「人的資本可視化指針」
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf
戦略的な人的資本開示に向けたステップ
人的資本の情報開示は、企業価値の向上・発展に向かうための一歩でもあります。有価証券報告書における開示が義務化すれば、人的資本が投資家の投資判断にますます大きな影響を与えることになるでしょう。
戦略的な人的資本開示のために、まずは、自社のパーパス、ビジョン、経営戦略、人事戦略に紐づいた目標を設定し、モニタリング指標を検討します。次に、必要なデータを計測できる環境を整えます。現状と目標との差を埋める施策をおこない、定期的なフィードバックで改善を重ねていくことが求められます。
人的資本開示のステップを学ぶのに最適な一冊が『経営戦略としての人的資本開示』(日本能率協会マネジメントセンター)です。人的資本経営の実現とHRテクノロジーの活用についても詳しく解説されており、人事担当者にとって心強い「実践ガイドブック」といえます。
開示する項目について知るためのおすすめ書籍
リーダーシップ
リーダーの力量は、組織の成長を大きく左右するだけでなく、人的資本開示においても重要な項目の1つです。自社内における「リーダーシップに対する信頼の度合い」を測るためには、リーダー個々人の行動だけでなく、その背後にある組織風土や評価基準も見ていく必要があります。
自社の組織風土について広い視野で考えていく際には、『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)がおすすめです。リーダーシップが開花しやすい組織づくりのヒントを多数得られます。
D&I
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、「人材の多様性を認め、受け入れて活かすこと」を意味します。D&Iを推進し、組織内に浸透させるうえでおすすめの一冊は『異なる人と「対話」する 本気のダイバーシティ経営』(日本経済新聞出版)です。女性、シニア、外国人、障がいのある人、性的少数者(LGBTQ)、子育てや介護を担う人など、多様なメンバーと協働することの重要性は増すばかり。とはいえ、まだまだ旧態依然とした風土に悩みを抱える経営者、管理職もいるでしょう。
本書では、組織内の「対話」にフォーカスして、ダイバーシティを推進するための方法を紹介しています。メルカリ、キリンHD、ソニーグループなどの豊富な「生きた事例」から、実践のヒントを得られるはずです。
従業員エンゲージメント
従業員のエンゲージメントを向上させるには、職場内の心理的安全性を高めていくことが重要です。具体的に、リーダーやマネージャーが現場を変えていくうえで読んでおきたい一冊が、『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』(ダイヤモンド社)。本書では、心理的安全性を高める「声かけ」フレーズが100種類紹介されています。こんな声かけができたら、メンバーのモチベーションが上がり、チームの雰囲気も前向きなものになるでしょう。
リスキルのための取組
今後も「人材育成にどれだけ投資しているか」に対する注目は増していくことでしょう。「人材版伊藤レポート2.0」でも、「リスキル・学び直しのための取組」が挙げられています。リスキリングは、単なる社内異動や配置転換ではありません。その本質は、自社に不足する新しい分野のプロフェッショナルを育てるための人材育成であり戦略的な投資であるということです。
リスキリングを自社で推進するうえで読んでおきたい一冊が『リスキリング』(日本能率協会マネジメントセンター)です。リスキリングの現在地と未来を体系的に学べます。
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